この記事は、Context makes Clean clean (James Lawley,2023)の翻訳です。
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1.イントロダクション
この記事では、コーチングやセラピーにおける「文脈的にクリーンな質問」と、その他の用途で、何かを達成したり人生を変化させたいという望みを持つ人に適用する「文脈的にクリーンな質問」について検証します。
何が、質問を文脈的にクリーンにするのか?
文脈的にクリーンな質問の価値とは何か?
そのような質問をどういう条件下で問いかけるのが適切か?
文脈的にクリーンな質問の使用については、クリーンランゲージを使用した「インタビュー」に関連して、すでに広く文書化されています。(*セクション13参照) しかしながら、望む結果が「変化」という場所での「文脈的にクリーンな質問」の活用については、この記事で初めて探究します。「文脈的にクリーンな質問」という発想自体は、デイビッド・グローブがクリーンランゲージを開発した初期の頃から存在していました。そして、それらの質問は使用されてもいましたが、「文脈的にクリーン」という言い回しは、2009年、ウェンディ・サリバンが、クリーンランゲージを利用した市場調査中に初導入しました。
この記事は、クリーンにコーチングやセラピーをファシリテーションする訓練をすでに受け、実践経験があるプラクティショナー向けです。また、テーマを深く掘り下げ、非常に微妙な違いを探究する長編です。記事の最後にたどり着く頃には、「クリーンとは何を意味するのか?」という魅惑的な質問に、さらに光があてられることを期待します。
「文脈的にクリーンな質問」は文脈を参照する必要があります。用途限定の質問(specialised question)12個を含んだシンボリック・モデリングの逐語録(セッション記録)をダウンロード(*)してください。逐語録には、それぞれの質問が文脈的にクリーンである理由を説明した注釈を入れています。
(*)翻訳次第、アップロードします。
2. 文脈とは何を意味するのか?
質問は「全て(all)」、「文脈的に」クリーンか、クリーンではないか、そのどちらかです。
これを別の言い方をすると、以下のようになります:‘クリーンさ’は質問が問いかけられた文脈の中で機能するもののため、本質的にクリーンな質問など存在しない。(「慣習的」には、質問と文脈とが「あたかも」無関係であるかのように‘クリーンな質問’と語りはします)。
このことを最大限に理解するためには、私がどういう意味で‘文脈’と言っているのかを説明する必要があります。
文脈とは、実につかみどころのない概念です。「シンボリック・モデリングを使用したコーチングやセラピー」という設定でクリーンランゲージの質問を問いかけるという話の場合、私たちは、以下4種類の文脈に言及します。
セッションの「目的」 (例:クライアントが変化を望む、または、自分の人生を向上させる何かを手に入れたがっている)
クライアントの内的世界(*)に存在する「内在する固有のロジック」 (*)クライアントのメタファー・ランドスケープ
セッションが行われている「物理的環境」
より「広範囲の状況」 (例:社会的文脈、組織的文脈、文化的文脈)
以上4種類の文脈は全て、クライアントに影響を与えます。また、ファシリテーターは、これら4種類の文脈全てを考慮する必要があります。しかしながら、ワークに取り組む際に 、これらの文脈全てが同じ程度、関係してくるわけではありません。一般的には、いつでもシンボリック・モデリングに関係する、より重要な文脈は最初の2つです。後の2つは、例えば、異文化のクライアントとワークに取り組む時などの特定の状況下で重要な意味を持ちます。
この記事の中では、最初の2種類の文脈の話に集中したいと思います。
次は、「質問を‘文脈的にクリーン’にするのは何か」、「文脈的にクリーンな質問の価値」、「このような質問を問いかけるのが適切なのは、どのような条件/文脈下にある時か」について探究します。
3. 古典的/伝統的*にクリーンな質問<基本の質問> *原語:classic
ペニー・トンプキンスと私は、最初に、1980年代中頃から1990年代中頃にかけてのデイビッド・グローブが行ったセッションの逐語録と録音の分析を行いました。私たちは、デイビッドが利用する頻度が高い質問を分類しました。そして、デイビッドの質問を<基本的><専門的(specialist*)><それ以外>の3つに振り分けました。
*訳註
現在は、specilized questionと呼ばれています。直訳すると、特殊/専門的な質問ですが、質問の役割がわかりやすいように、この記事の中では、「用途限定」と翻訳しています。
分類は、そこで固定されたわけではなく、長い時間をかけて、以下の2つに応じて、何度か細かな再振り分けを行いました。
文脈…何に使用されているか
自分たちの理解の深まり…クリーンランゲージを‘クリーン’にしているものに対して
基本の質問と用途限定の質問との分類の主な違いは、質問の「普遍性/汎用性(universality)」です。言い換えるならば、「どんな文脈の中でその質問が使用される時に、クリーンである可能性が高いのか?」によって分類されています。‘基本' の質問は、‘ほぼ’ 普遍的にクリーンです。というのも、基本の質問は、人間が「空間、時間、形を利用して自分の体験を整理する」根源的な方法に頼るからです。セラピーやコーチングの文脈では、以下の8つの質問(いくつかバリエーションはあります)が、クリーンランゲージの全質問中の最も普遍的な質問だと考えられます。
そして あなたは何が起きてくれたら好いのでしょう? And what would you like to have happen?
そして […]について他に何かありますか? And is there anything else about […]?
そして その[…]はどんな[…]ですか? And what kind of […] is that […]?
[…]はどこ/どのあたりにありますか? And where/whereabouts is […]?
そして […]は何のようですか/何に似ていますか? And that’s […] like what?
そして [X]のとき、[Y]には何が起きますか? And when/as [x], what happens to [y]?
そして [出来事]の直前には何が起きますか? And what happens just before [event]?
そして 次に何が起きますか?/そうすると 何が起きますか? And what happens next? / And then what happens?
注意点3つ:
クリーンランゲージを使用する際は、用途ごとに独自の基本質問セットが必要です。例えば、聞き取り調査(研究インタビュー)のクリーンさを評価する ‘クリーン度’ を作成した際には、私は基本的な「インタビュー/面接」用の質問を「古典的」クリーンと呼び、コーチングやセラピーで使用する基本の質問と区別しました。具体的には、「そして あなたは何が起きてくれたら好いのでしょう?」という質問が、クリーンランゲージを使用して行うインタビューや面接で使用できることはほとんどありません。そのため、この質問はクリーン・インタビューで使用するクリーンな質問の「古典的」セットには含まれていません。
‘ほぼ’ 普遍的とは、‘完全に’ 普遍的という意味ではありません。基本的なクリーンランゲージの質問を問いかけるのがクリーンではない文脈すらあり得ます。これにあてはまるのは例えば、もし質問がクライアントが望んでいる結果(アウトカム)と相反する方向に向けられていたり、クライアントの内的世界の論理(ロジック)には ‘適合しない’ 場合などです。(参照: Calibrating whether what you are doing is working or not.)
上記リストの8つの質問だけで、セラピーやコーチングのセッション全体を行うこともできます。私の最近の調査からもそのことは明らかです。私とペニーが問いかける質問のうち、平均80%は上記リストの質問からです。
8つの基本のクリーンランゲージの質問が、‘基本’ で ‘普遍的’ なのには他にも理由があります。まず、それらの質問は、合計で21個(*)の短い単語のみを利用しているからです。(*)英語の場合。日本語でも単語数は少ないです。
次にそれらの単語のほとんどが、「ありとあらゆるあらゆる(every)」言語にとっての根本的な概念と関連づいているからです。これらの概念は、‘意味素(semantic primes)’と呼ばれています。元は、Anna Wierzbickaによって導入された概念ですが、意味素の研究によって、「人が生得的に理解しているとされる概念」のちょっとしたリストが生み出されました。それらのリストにある言葉は、これまでに研究されてきた ‘ありとあらゆる(every)’ 言語に登場し、なおかつ、それより短い言葉では表現できない言葉だったのです。 以上を踏まえて、基本の質問は、ほぼ、意味素(といくつかの直接派生語)から構成されており、「基本の質問には本質的な普遍性がある」ことになります。
2に続く。
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