この記事は A Clean Framework for Changeからの翻訳です
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1.バックグラウンド
足場が必要なんです
「でも、何かが必要なんです」必死な顔で生徒が訴えました。「何かが必要なんです、何かが、何か‥‥。自分のモデルを構築するのを助けてくれる足場が(必要なんです)」 「OK」ジェームズは問い返しました。 「そうすると何が起きるんだろう?」
「自分のビルが完成したら、足場を解体します。それから、自分のモデルを使ってこんなことができるようになるんです」
これが、私たちが、Metaphor in Mindの中に書いた<5段階のシンボリック・モデリング・プロセス>の使い方を学びたい学習者用に、中級者向けの方法(step)を考案しようと決めた瞬間です。シンボリック・モデリングは、一般化されたボトムアップ型のアプローチです。そして、クライアントが〜その瞬間の体験から人生のパターンまで〜セルフ・モデリング(自己の体系化)するのをクリーンにファシリテートするために使われるものです。すると、その人のシステム全体と調和する有機的な変化が起こるのです。
この時まで、私たちには、手順的なモデルを生み出すことに抵抗感がありました。なぜならば、生徒にトップダウン型のプロセスを提供しつつ、ボトムアップ型のモデリングを教えるなんて矛盾している!からです。けれども、一部の生徒にとっては、仕組みがないことで学習能力を阻害する反応が引き起こされているというフィードバックを得ていました。足場の話が、最後の一押しだったのです。とはいうものの、中級者向けの方法(step)とはどんなものであればいいのでしょう?
私たちは、足場を考案するマイナス面を知っていました。一度道の上に置かれたものは、そのまま放置するのが最も抵抗がない方法です。そこで、私たちは、ボトム・アップ型のモデリング技術を習得するのに十分な機会を提供しつつ、学習者がシンボリック・モデリングを使いこなせるようになるための程よい仕組みを提供することを目指そうと思いました。
私たちは、「足場」を提供しようとしましたが、最終的には「フレーム(枠/frame)」のような働きをするプロセスとなりました。‥‥正確には、相互接続しているフレーム(枠)の一連です。丁寧に組み立てられた足場を解体するというより、さまざまなベニヤ板や装飾を付け加えていく枠組み(フレームワーク/Framework)のメタファーがいいと思いました。そういうわけで、変化のためのフレームワーク(枠組み/Framework)なのです。これが、2002年のことでした。
この間の数年、私たちは、人々がどのようにモデルを使用するかについて多くを学び、そこには驚くほど価値のある副次的効果もありました。私たちは、そのモデルに手を加え続けました。そして、2010年、そのモデルを、変化のためのクリーン・フレームワークと改名しました‥‥それが今からご紹介するバージョンです。
独立したコーチング・プロセス
私たちは元々、学習者がシンボリック・モデラーに必要な技術を身につける方法として「変化のためのクリーンなフレームワーク」を考案しました。それそのものが独立したコーチングのプロセスとして完全に成立していることには、このフレームワークを使い始めてみるまで気がついていませんでした。そこで、私たちがいくつかよく知られたコーチングモデルを見直ししてみたところ、「変化のためのクリーン・フレームワーク」には、それらの多くと重複する部分や互換性がありました。その一方で、何か違うものを提供していることが明らかになったのです。主な違いは以下の通りです。
デイビッド・グローブのクリーンランゲージ
モデリングを基本とした技法
クライアントによって生成されたメタファーに注意を向けること
私たちがこのプロセスをクリーン・フレームワークと呼んでいるのは、ファシリテーターが「クリーン」でいることを約束する必要があるからです。つまり、どの段階でも、クリーンランゲージを使用するということです。クリーンランゲージでは、それぞれの質問に決まった文言があります。‥‥ファシリテーターがそこに適切なクライアントの言葉をはめ込むだけで、質問が完成します。さらに私たちは、それぞれの段階で、どのクリーンランゲージの質問を問いかければ、最小限の努力で最大の効果が得られるかを特定しました。
「変化のためのクリーン・フレームワーク」は、主にコーチングで使用されています。ですが、ファシリテーターは、クライアントまたはクライアントの内的なランドスケープのどちらも変化させようとはしません。それゆえ、ファシリテーターは、「変化の主体」ではありません。これは、このフレームワークが、モデリングの技法であり、変化はその副産物だからですが、あなたは、変化が起きない段階というものはないことにお気づきになるでしょう。その代わりに私たちは「何か違うこと」を求めるクライアントの願望を、セッションの出発点や動機、または契約としてとらえています。クライアントに変わってもらいたいと思う私たちの願望で、クライアントの変わりたいという願望を後押しする必要はありません。実際、クライアントのプロセスにおいて、私たちの願望が(クライアントにとって)余計な負荷になり、逆効果になることは多いのです。
クリーンランゲージの質問は特殊です。そして、変化を意図していないにもかかわらず、ファシリテーターには、従来のコーチとは違う重要な役割を果たす可能性が十分にあります。
「変化のためのクリーン・フレームワーク」のファシリテーターは、問題を解決する努力をしたり、「パワフルな」質問を考えたり、クライアントのやる気を引き出したりする代わりに、クライアントの世界のモデルの中で、その世界のモデルと作業をする(ワークする)のです。
もしもあなたが、経験豊かなコーチやセラピストだとしたら、おそらくは「自分は(ここまでに書かれたようなことは)もうすでにそうしている」とおっしゃるかもしれません。そして、きっとそうなのでしょう。けれど、「変化のためのクリーン・フレームワーク」が要求するほどではないかもしれません。
過去の15年間、私たちは、地球上のあらゆる場所からやってきたコーチ、セラピスト、カウンセラー、それからファシリテーターをトレーニングしてきました。そこで私たちが観たものは、シンボリック・モデリングを使い、そしてこれがさらに重要なのですが、経験豊かなシンボリック・モデラーからファシリテーションを受けた後、人はようやくその違いに気づくということだったのです。‥‥そしてその気づいた違いが大きな違いを生むということでした。私たちは、「変化のためのクリーン・フレームワーク」が常に、他のモデルより効果的で優れているというつもりはありません。しかし、私たちがお伝えしたいのは、他の方法論では辿り着きにくい内的な振る舞い(行動)のパターンに、この技法は手が届くということなのです。
明確にしておくと、クリーンであり続けること、モデラーとしての心構えを保ち続けることは、ファシリテーターに多くを要求します。これらは、馴染みのある考え方ではありません。特に、もしも、これまでに問題解決型のアプローチ(技法)のトレーニングを受けたことがある方の場合はそうかもしれません。ファシリテーターは、何者かであるその人自身と合致するアプローチで作業(ワーク)する必要があります。ですから、「このフレームワークは自分には合わない」と感じる方もいるかもしれません。けれど、私たちが過去に教えた生徒の一人がこう言ったことがあります。「これは、道具箱の単なる新しい道具ではありませんね、これは、まっさらな道具箱です。」
全てのアプローチ(技法)がそうであるように、「変化のためのクリーン・フレームワーク」も、あらゆる状況下にいるあらゆるクライアントに適応するものではありません。私たちは、コーチングにおいて、まれに、このアプローチが適切ではない状況があることを把握しています。しかしながら、どの人が(その人の持つ構造が)この技法と互換性がないクライアントであるか、事前にはわかりません。そのため、私たちは、ほとんどの場合、このフレームワークからはじめますが、クライアントの反応次第で適切に調整をしています。(他に何かありますか?のコーナーを参照してください)
ファシリテーターが、クライアント独自の世界の在り方に適応できればできるほど、「変化のためのクリーン・フレームワーク」を使用できるクライアントの幅は広がります。
特徴
変化のためのクリーン・フレームワークは、段階的なモデルです。クライアントがその人の自己に注意を向けるようにファシリテーターが誘うのをサポートします。そして、クライアントが、<クライアント本人にとって望ましいアウトカム>、<望ましいアウトカムの効果>、<望ましいアウトカムが自然に起きるための条件>、をセルフ・モデリング(自己の体系化)できるようにします。また、変化が自然に現れた時には、クライアントはその変化の効果をセルフ・モデリングするようにファシリテートされます。
クリーンなアプローチ(技法)の特徴であり、他のアプローチとの違いでもあるのは、ファシリテーターが言及できるのが(クライアントのメタファー・ランドスケープ内、クライアントの「現実の人生」どちらについても)クライアントが述べたことのみに限定されることです。ファシリテーターは、クライアントの内的世界にまだ存在しないいかなる内容も(話には)持ち込めません。
変化のためのクリーン・フレームワークの特徴は‥‥
デイビッド・グローブのクリーンなアプローチを元にしている
クライアントの情報中心
内容の詳細について(コンテンツレベルにおいては/at the level of content)非指示的
アウトカム志向
プロセス志向
「あるがまま(what is)」を受け入れること
「何が起きても大丈夫(what ever happens)」を活用すること
「システムの叡知(wisdom of the system)」を信頼していること
クライアントのセルフ・モデリング(自己の体系化)を促進するモデリングのプロセスであること
クライアントを変化させる意図がないこと
内容不問(コンテンツ・フリー/content-free)なこと。(つまり、メタファーの話なので、ファシリテーターは、クライアントの「現実の人生」の状況を知りようがないということ)
時間をかけて、複数回に渡る数分間のセッションでも使用できること
認知的なワークを好む人、感情や身体を意識的に使う人、どちらにも同じように効果的であること
セッション中、そこにあるのはただ「今」のみです。全ての望ましいアウトカムは、人の心の構造物です。期待される効果もまた然りです。そして、ファシリテーターとクライアントの関係性はプロセスの重要部分ではありますが、さらに重要なのは、クライアントとその人の構造物との関係です。「変化のためのクリーン・フレームワーク」の中で、私たちがファシリテーターとクライアントの関係性に望むのは、その関係性が後ろに隠れ、クライアントとクライアントの構造物との関係性が前面に来ることです。そうある時のことを、私たちは「クライアントがセルフ・モデリングをしている」と言っています。
適用範囲
変化のためのクリーン・フレームワークは、主として1対1でのチェンジワークをファシリテーションするために考案されており、特にコーチングのモデルとしては、ほとんどの変化のプロセスを効果的に始めることができる方法です。このプロセスには、目標(ゴール/到達点)や目的の重要性を認識している多くの心理療法を含みます。
このフレームワークでは、ステージ1で<プロブレム(Problem)ーレメディ(Remedy)ーアウトカム(Outcome)>からなる「PROモデル」を使用し、ステージ2で「発展させる質問」を使用しますが、これは、クライアントが、自分自身と世界がどうありたいかを知っているクライアント自身の経験に、真っ直ぐに注意を向けるための非常に洗練された方法です。
しかしながら、変化のためのクリーン・フレームワークは、(コーチングや心理療法だけでなく)さらに広い範囲に適用可能です。このフレーム・ワークは、わずか数分で行うセッションから、数回に渡って行われるセッションに至るまで、効果的に使用されていますが、それらは、以下を土台に形作られました。
The Weight Watchersの1分間モチベーション・プログラム
事業計画立案のプロセス
紛争解決
お客様の声と顧客情報の収集
源/ソース
変化のためのクリーン・フレームワークは、空気中から勝手に現れたわけではありません。というよりはむしろ、芳醇な土壌が生み出したものです。その土壌には、いくつかの源(ソース/source)があります。
そこに含まれているのは‥‥
デイビッド・グローブ:私たちは主に、グローブのクリーンランゲージを中心にしてプロセスを構築しました。このプロセスは、クライアントの内的な経験、特にクライアントのメタファーに対しての彼の取り組み方(his way of working)を基にしています。(Metaphors in Mindを参照してください)
NLP(神経言語プログラミング)‥‥特に、モデリングの概念。また、NLPの前提である「人間は壊れておらず、修理する必要はない」、「人間はその人が必要とするリソース全てをもっている」。そして、ロバート・ディルツやトッド・エプスタインが 考案したり明示した多くのモデルの背後にある考え。(例えば、ウェルフォームド・アウトカム、TOTEモデル、エコロジー、SCOREモデル、Pathway to Healthなど)
ロバート・フリッツ:特に、望ましいアウトカムと現実についての彼の洞察。
グレゴリー・ベイトソン:複雑な適応システムの一部でありつつ、そのシステムを使って動き(work)、システム的に考える方法。
スティーブ・ド・シェイザー、インスー・キム・バーグ:ソリューション・フォーカス・セラピー(解決志向セラピー):クライアントのリソース、変化、例外に対して継続的に質問を向け続ける方法について。
ユージン・ジェンドリン:フォーカシング・プロセス:クライアントが行うことが効果的なチェンジワークの鍵だというエビデンスを示し、クライアントがある一つの体験に注意を向け続けることで、その形と名前が明らかになることの重要性。
さらに、変化のためのクリーン・フレームワークの背景には、自己組織化システム、進化的ダイナミクス、認知言語学等、私たちの知識があります。参照文献については、Metaphors in Mindでご紹介しています。
(訳註:「Metaphor in Mindの参考文献」を参照してください)
2.プロセスに続く。
©︎Penny Tompkins and James Lawley
翻訳:Yukari.I
<用語の翻訳について>
まだ翻訳が固まっていない用語、元の英単語が日本語では複数の異なる意味を持つ単語、かなり意訳している単語については、()でくくって元の英単語を表記しています。
また、同じ単語でも、クライアント側の体験とファシリテーター側の体験で理解が異なると思われる単語については、その時々の文章が、クライアント側の体験について書かれているのか、ファシリテーター側の体験について書かれているのかによって、訳を使い分けしています。この記事の中では、Identifyという単語で、それを頻繁に行っています。
より理解を促進するために、すでにクリーンランゲージを使用されている方で、翻訳がしっくりこないと感じる場合は、元の英単語も調べて、ご自身の体験と照らし合わせてみることをお勧めします。
誤訳にお気づきの方は、お手数ですが、
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