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文脈がクリーンをクリーンにする(4)|Context makes Clean clean【翻訳】

Context makes Clean clean (James Lawley,2023)の翻訳です。

 

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文脈が文脈をクリーンにする
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9.文脈的にクリーンな質問の価値


知識(knowledge)には三種類の知識があります。既知(既に知っている知識)、暗黙知(tacit)、創発的な知識(emergent)です。文脈的にクリーンな質問が果たす役割は、三種類全ての知識にクライアントがアクセスするのをファシリテーションすることです。


さておき、私は、「知識」という言葉を、非常に広い意味で使用しています。



既知(既に知っている知識) Known knowledge

クライアントは、あらゆる種類の「あらかじめ理解している事柄(事前理解)」を抱えてやってくるものです。しかし、時に、クライアントは、質問されてみるまで、現時点に存在する体験や情報に気づかないことがあります。用途限定の質問は、クライアントの注意を、ある種の特徴に直接的に誘うことができます。


例えば、クライアントの意識上には、その人の心の目にははっきり見えているイメージがあるとしましょう。ですが、クライアントはそのイメージの大きさや形には注目していないかもしれません。イメージの持つ大きさや形に注目し、そこに問いかければ、クライアントが何か普通ではないことや驚くことを発見できる可能性があります。その際のクライアントの発言としては、「うわあ、横並びだ!」といった感じかもしれません。

または、イメージを対比して、(大きさの相対的な)比率を発見できるかもしれません。「これは、自分がもともと考えていたよりも、小さい。」

もしくは、イメージから連想される何かが見つかるかもしれません。「これと…は、同じ大きさ。」


また、「何が大事なのか、クライアントが単にそこに注目してこなかっただけ」という場合もよくあります。

例えば、「どうやって長期的なゴールを達成すればいいのかがわからず、思い悩み動けなくなること」はよくあります。そして、(ゴールにばかり注目し、目先のプロセスに注目しなかった)その結果、(今の段階の)すぐ次の段階のプロセスについてほとんど考えていない、もしくは、全く考えていない、とようなことがあるかもしれません。



暗黙知 Tacit knowledge


文脈的にクリーンな質問は、クライアントが普段は注目しない体験の特徴や要素について考えるようにクライアントを誘うのに便利です。暗黙知に関連する体験が、特にこれにあたります。


暗黙知とは、クライアントの中で「まだ、はっきりした言葉になっていない知識」です。そして、おそらくは、質問を問いかけられるまで、自分がそのことを知っていることにすら、クライアントが気づいていない可能性もあります。


デイビッド・グローブは、「私は、何かが意味を成すために、そこにあるべきもので、そこに無いものに興味がある」とよく言っていました。この表現は、完璧に、暗黙知(tacit knowledge)、や暗示的知識(物言わぬ知識/implicit knowledge)について言い表しているのではないかと思います。


用途限定の質問は、クライアントの日常の物語の向こう側にあり、クライアントがより深く「知っていること」へのアクセスをファシリテーションすることができます。それらの質問は、これまで検証したことがない数々の要素について検証してみませんか?と、クライアントを招きます。おそらく、その要素は、クライアントが好まない事柄や無視してきた事柄、クライアントが価値を認めてこなかった事柄、もしくは、自分で自分をごまかしてきた事柄などかもしれません。

「自分を束縛するように取り囲んでいる泡」が、実は、「自分を傷つける言葉」から「傷つきやすい心」を守るという意図を持っていることに気づくようなこともあるかもしれません。


同様に、物言わぬ(暗黙の)要素は、過小評価されていたり、価値を認めていないリソースの場合もありえます。

例として、リソースの源泉があげられます。リソースの源泉は通常、リソースそのものよりもリソースに満ちています。 「〜から来ましたか?(Come from?)」という質問を巧みに使用すると、クライアントがリソースに満ちた状態にアクセスしやすくなる可能性が高いです。

例として、先ほどのセッション例に登場したのとは別のウクライナのクライアントをあげます。

そのクライアントには、「ある家族をサポートしたいという望み」がありました。その家族は、2日前に父親を戦争で殺されていました。ですが、クライアントは、その家族にかける言葉を見つけられずにいました。

私は問いかけました。


そして あなたの その家族を サポートしたい はどこから来ていますか?


「愛から」と、クライアントは答えました。彼女は、自分の望みの出どころ(源泉/source)には、望みとはまた別にリソースが存在すると気づいたのです。


私はその後、クリーンな質問をいくつか問いかけました。そして、「愛」は、クライアントがその家族にかける言葉を見つけるために必要なリソースのメタファーになりました。


「その愛は、惑星のようなもので、いくつもの惑星がある銀河のように、惑星が…言葉が、ひとつ、またひとつ、通りすぎていくんです。」[身振りでメタファーを表現する]


クライアント本人も含め誰にも、(こういう展開になると)、事前に予測はできませんでした。




創発的な知識 Emergent knowledge

文脈的にクリーンな質問は、基本の質問と併用することで、(クライアントによって)知識が創発される条件/状況が整うのを助けます。


創発的な知識とは、その瞬間に生み出される知恵/知識や視点(物の見方)、経験のことです。

この知識は、「創造的な気づきをもたらす条件」が積み重なって整うまで、クライアントのシステムには存在しません。


コーチングやセラピーの文脈においてシンボリック・モデリングが目指すものの一つは、「自発的な創造性の創発」、「新しい知恵・視点・経験の創発」を促す条件/状況を、クライアントのシステムが生み出すのをファシリテーションすることです。


シンボリック・モデリングは、完全に足し算(付加的/additive)のプロセスです。クライアントの体験のいかなる要素/特徴も取り去ろうとはしません。シンボリック・モデリングが足し算の(付加的な)姿勢を保つ理由ですが、複雑性理論(Complexity theory)によると…


事前に、クライアントの創造的な無意識(もしくは、そこから知恵がやってくると、その人が信じるところ)が知恵の創発に必要とする条件を、正確に知ることは不可能だから。


② 小さな変化でも、より体系的な何かに連鎖する可能性があるから。


…というところからです。 創発的な知識が現れるところをお見せできる端的な例を見つけるのは簡単ではありません。

というのも、そういった瞬間は、そこまでにした質問全てが蓄積して生まれるもので、ただ文脈的にクリーンな質問を一度問いかければ生まれるというものではないからです。 デイビッド・グローブは「変化は文脈の中で起きる」とよく言っていました。これこそ、私たちが、クライアントが「身体化されたメタファー・ランドスケープを構築」し、クライアントが「メタファー・ランドスケープに意識を保つよう」に、ファシリテーションする重要性を強調する理由です。

メタファー・ランドスケープこそが、文脈なのです。そして、その中で、自発的な創造性が花開くのです。


この後のセッションの逐語録でも、このあたりをお見せします。 セッションの終盤に向かうにつれて、クライアントは自分の内的世界に「驚かされます」。*


*著者註:クライアントが自分の内的世界に「驚かされる」「驚く」という発言は、通常は、変化の兆し。

そして、クライアントは、「きらめきがもっと大きくなってくれたらいい」を新しい望むアウトカム(結果)に設定します。クライアントの望みが可能かどうかを確認するために、私は、用途限定の質問「[望むこと/必要なこと]が起きるのは可能ですか?」を問いかけています。

41

C

全てに少しだけ驚いています。自分の怖れが見えていなかったんです。それに、きらめきも見えていませんでした。そして、怖れが見えてきて、それを認識してみたら、 この恐れは、自分にとっては重要な点だったんです。それがここまで深いものだとは見えていませんでした。

42

J

そして 今、あなたは その怖れを認識し、そして、きらめきを 認識している。 そして、あなたが 怖れを認識し そして きらめきを認識 するとき、あなたは何が起きてくれたら好いのでしょう?

43

C

[喉を鳴らして微笑む]そのきらめきにもっと大きくなってもらいたいです。

44

J

そして、そのきらめきが大きくなるのは可能ですか?

45

C

今、きらめきは、イスラエルの独立記念日の打ち上げ花火(祝砲/a salute)みたいです。[満面の笑顔]

それから、私は、この物語は、ホロコーストの話だと理解し始めました。[涙を流す]

私が驚いたのは、「きらめきが大きくなるのは可能か?」という質問が、気づきの創発をもたらしたことでした。また、「きらめき」から「打ち上げ花火」への変化が自発的に起きて、クライアントのステート(状態)と視点が変容したことでした。



(5)に続く







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