top of page

身体化されたスキーマ〜身体化(された)認知の基本〜(1)| 翻訳

この記事は以下の翻訳です。 Embodied Schema: The basis of embodied cognition(ペニー・トンプキンス&ジェームズ・ローリー著)

 

さあ、原点に返りましょう。・・・「我々はどこからやってきたのか」とデイビッド・グローブが言ったように・・・身体化されたスキーマ(embodied schema)の領域に足を踏み入れましょう。つまり、身体化(された)認知(embodied cognition)の基本に。


マーク・ジョンソンは、その著書『心の中の身体』の中で、「経験的」世界観をこうまとめています。

私たちが理解し、推論することができる有意義で互いに結びついた経験をするためには、私たちの行動、知覚、および概念にパターンと秩序がなければなりません。スキーマとは、このような継続的な秩序の形成活動の中で繰り返されるパターン、形、規則性のことです。これらのパターンは、主に空間を介した身体運動、モノ(物体)の操作、知覚の相互作用のレベルで、私たちに意味のある構造として出現(emergent)します。私たちの経験と理解を組織化する構造として(身体化された)イメージスキーマの動的特性を認識することが重要です。 スキーマは少量のパーツと関係性から構成され、知覚、イメージ、および事象を無限に構造化する効能があります。イメージスキーマは、抽象的な命題構造と具体的なイメージの間に位置する精神的な組織化レベルで機能します。[29ページ]

人が描写することが、(人の)内部ではどのように行われているかを表現する言葉や非言語(表現)を、すっきりと体系化しようとするならば、ジョンソンのいう組織化レベル3つ〜具体例、身体化されたスキーマ、抽象的な概念〜全てを体系化する必要があります。


中間レベルである<身体化されたスキーマ>は最も軽視されがちなため、この記事ではこの領域に関しての(あなたの)モデリングスキルを向上させることに専念します。


引用文の中では、「イメージスキーマ」という用語が使用されることが多いですが、私たち自身は、「身体化されたスキーマ」という言葉を好んで使用します。

私たちは「身体化されたスキーマ」という言葉が、子供の頃に言葉(を覚える)以前に獲得し、その後、私たちの言語的または非言語的な言葉の中にあらかじめ存在する本質として現れてくる、多種多様の感覚的な経験パターンをより正確に反映させていると感じています。

私たち、または他の人たちの身体化されたスキーマは、共通したところが多いのです。そして、魚が水のことを意識しようとしないように、私たちはそれをほとんど意識しませんが、身体化されたスキーマは、言葉や考えに埋め込まれています。


身体化されたスキーマをモデリングすることで、あなたは、他者のpsychescapes(心理的空間)の構造の中に、「2つ目の視野(second sight)」のようなものを発展させることができるようになるでしょう。そして、その結果、クリーンランゲージを、わずかに違う、より的確な方法で使うことができるようになるでしょう。

 

目次


1.イメージ・スキーマ

2.身体化されたスキーマの指標

3.練習

4.スキーマのサンプル

5.逐語録(セッション記録)での身体化されたスキーマの指標

6.逐語録でのスキーマ描画


尚、身体化されたスキーマの基本的な前提を説明するために、Vyvyan Evans and Melanie Green, Cognitive Linguistics.から以下を抜粋しています。An Introduction, Edinburgh University Press, 2006, pp.177-191 [注:図を修正し、括弧内にコメントを追加しています]

 
1.イメージスキーマ

イメージスキーマの理論は、当初、認知意味論で発展し、やがて認知心理学や発達心理学などの隣接する研究領域にも大きな影響を与えるようになりました。イメージスキーマの概念は、認知意味論の初期の研究者、特にジョージ・レイコフとマーク・ジョンソンによって提唱された「身体化認知論」の展開と深く関係しています。


レイコフとジョンソンが、著書『Metaphors We Live By』(邦題:レトリックと人生)で提起した中心的な命題の一つは、次のようなものです。「概念表現に関連する複雑さはどこから来るのだろう?」 彼らが出した答えは、「こうも複雑なのは、人間が形作ることができる類の概念と人間の肉体の本質の間に、密接な相関関係が多分にあるためだ」というものでした。この観点を採用するならば、人間の身体性は概念の構造化に直接的に関係しています。ですから、このセクションでは、身体化認知論の中心概念であるイメージスキーマを取り上げてみようと思います。


 
イメージスキーマとは何か?

マーク・ジョンソンがその著作、『心の中の身体』(1987)の中で提唱したのは、「身体化された経験が概念体系(概念システム)の中にイメージスキーマを生み出す」ということです。

イメージスキーマは、私たちが世界と相互作用しながら、その中を動き回る時の感覚的で知覚的な体験に基づいています。例えば、人間は直立歩行していますが、体の一番上に頭があり、一番下に足がついています。そして、物体を引きつけている重力の存在を考えるなら、人体の縦軸は構造的に非対称であることがわかります。人体の縦軸は上下非対称であることが特徴です。つまり、上半身と下半身では、(作りが)違います。

認知意味論では、このように縦軸(の作り)が非対称なために、人間は落ちているものを拾い上げるために身をかがめたり、落ちているものを見るために一方向(下方向)を向いたり、拾い上げたものをみるために別方向(上方向)を向いてみる必要があると主張しています。言いかえるならば、私たちの生理機能が、重力と相互作用する私たちの縦軸を裏付けし、結果としてどのように周辺環境と相互作用するかを意味付けているのです。ジョンソンによれば、私たちのこの観点における経験が、「上下(UP-DOWN)のスキーマ」というイメージスキーマを生み出しています。[セクション2:あるクライアントのセッション例を参照してください]


さらにいうならば、発達心理学者のジーン・マンドラーが示したように、イメージスキーマは、エマージェントします。(訳註:エマージェント emergent創発する。意図的でなく生まれ出る、不意に現れる。)


これは、この経験は、私たちの身体機能のひとつであり、世界との相互作用する作業だということです。そのため、この種の経験は、幼少期に、身体の成長や心理学的発達と連動して現れます。言いかえるならば、イメージスキーマは、先天的な知識構造とは言えないのです。


「イメージ」という言葉は、日常会話の中で使う言葉としては視覚的な知覚に限定されていますが、心理学と認知言語学においては、より幅広く応用されています。それらの分野では、イメージという言葉は、全種類の感覚的―知覚的経験を含みます。[これが、私たち(ペニー・トンプキンス&ジェームズ・ローリー)が、イメージスキーマを「身体化されたスキーマ」と呼ぶのを好む理由です。]


「イメージスキーマ」に含まれる「スキーマ」という言葉もまた、非常に重要です。この言葉は、イメージスキーマが豊かで詳細(を事細かに描写するよう)な概念ではなく、繰り返される身体化された経験のパターンから生まれた抽象的な概念であることを表しています。単語を例にあげると、「物」や「容器」のような言葉は、「鉛筆」や「ティーカップ」よりも、スキーマ的な意味合いがあります。

イメージスキーマ「容器」で説明するなら、以下の普通の一日の始まりを描写するジョンソンの著作(1987)の抜粋で明らかなように、(そのイメージスキーマは、)私たちが日常的に繰り返している「容器」を伴う経験に由来しています。

You wake out of a deep sleep and peer out from beneath the covers into your room.

深い眠りから目覚めて、布団中から部屋を覗き込みます。

You gradually emerge out of your stupor, and pull yourself out from under the covers, climb into your robe, stretch out your limbs, and walk in a daze out of the bedroom and into the bathroom.

徐々にぼんやりした状態から抜け出して、布団から出て、服を着て、手足を伸ばして、ぼーっとする、寝室を出て、洗面所へ入ります。


You look in the mirror and see your face staring out at you.

鏡の中を覗き込み、じっと自分の顔を見ます。


Your reach into the medicine cabinet, take out the toothpaste, squeeze out some toothpaste, put the toothbrush into your mouth, brush your teeth in a hurry, and rinse out your mouth. (Johnson 1987: 331; our italics differ from the original)

戸棚に手を入れ、歯磨き粉を取り出し、少し歯磨き粉を絞り出し、口の中に歯ブラシをくわえます(いれます)。急いで歯を磨き、口をゆすぎます(口に水を含み、水を吐き出す)。


(ジョンソン、1987:331,太文字は訳者。記事原文は、前置詞がイタリック体)



この例では、inとout(出入り)の表現が繰り返し使用されています(*訳註)。

ここから明らかなように、多くの日用品や日々の経験が、容器というスキーマ的な概念の具体例として分類されています。はっきりと容器とわかる洗面所や戸棚のようなもの、また、やや容器とはわかりにくい歯磨き粉のチューブ、布団、服、部屋のような「容器」があるだけではではありません。眠り、ぼんやり、ぼーっとしている、などの状態も容器の一例です。

(*訳註:日本語の場合、容器のスキーマに多く関わるのは、「出る」「入る」など、出入りを表す動詞です)



イメージスキーマの特性

イメージスキーマは、そもそも概念以前のものです。

しかし、<感覚的な情報が繰り返されるパターン>が抽出されイメージスキーマとして保存されると、感覚的な経験は概念的な表現を生み出します。つまり、イメージスキーマは概念ですが、特殊な概念なのです。イメージスキーマは、人の心に一番最初に登場する概念であり、概念体系(システム)の基盤です。感覚的な経験と関係しており、極めてスキーマ的です。


時に、イメージスキーマ的な概念を把握するのは、「猫」や「本」といった具体的な概念を把握するより難しい場合があります。具体的な概念は、私たちが「知っている」と意識している観念に関係しています。対して、イメージスキーマは考え方の基盤にあり、私たちがそれを意識することはありません。私たちは、この知恵を人生の本当に初期、言葉が現れるより前に習得するため、(自分や物が)物質界の中にある物質的存在であることはごく当たり前だとみなしているのです。



イメージスキーマはより具体的な概念を生み出す

認知言語学では、図を頻繁に利用します。そして、意味を表す要素に形ある表現を与えようとします。「容器」のイメージスキーマは、内側、境界、外側をその構造要素として、構成されています。この3つは、「容器」に必要な最低限の条件です。(レイコフ 1987)



この図が、(ティーカップ、家、悪い雰囲気などの)特定の種類の容器(を表すよう)に見えないのは、まさしく、そのスキーマ的な意味合いからです。この類の図の背景にある考え方は、イメージスキーマ的な意味を、「容器」という概念カテゴリーの全例に共通する特性だけを表現した本質にまで、「煮詰める(余分な要素を排除して要約する)」ことです。


では、「out(〜に/から、出る)」という言葉で作り出された容器のスキーマのバリエーションについて、考察してみましょう。


John went out of the room.

ジョンが部屋から出て行った。

Pump out the air.

空気を吐き出す。

Let your anger out.

怒りを吐き出す。

Pick out the best theory.

最善な方法を選びだす。


Down out the music.

音楽を聞き流す。

Harry weasled out of the contract.

ハリーは契約から逃げ出した。


 

The honey spread out.

蜂蜜を広げる。

Pour out the beans.

豆を取り出す。

Roll out the red carpet.

赤いカーペットを広げる(敷く)。

Send out the troops.

軍隊を送り出す(派遣する)。

Hand out the information.

案内を配る。

Write out your ideas.

アイデアを書き出す。


 

図2と3のイメージスキーマが図1のイメージスキーマの図よりも、詳細で具体的なのは、図2、3は、(内容物が)格納されているだけではなく、動きが伴うからです。これは、基本的なスキーマからさらに具体的なイメージスキーマが生み出され、スキーマ性の程度が様々なイメージスキーマがあることを示しています。



イメージスキーマは、メンタル・イメージと同じではない

メンタルイメージ(心象風景/mental images)は詳細で、視覚的な記憶を呼び起こす努力と、一部は意識的な認知プロセスの結果として生まれるものです。つまり、目を閉じて誰かの顔や手の中にある物の感覚を「思い浮かべる」ように、イメージスキーマを「思い浮かべる」ことはできません。



イメージスキーマは、マルチモーダル(multi-modal)

目を閉じてイメージスキーマを「思い浮かべる」ことができない理由の一つは、イメージスキーマがさまざまなモダリティ(さまざまな種類の感覚的な経験)にまたがる経験に由来していて、そのため、特定の感覚特有のものではないためです。別の言葉で言うと、イメージスキーマは、認知システム内の「より奥深く」に埋め込まれています。そして、あまりに広範囲な知覚的経験から生じる抽象的なパターンであり、[通常は]意識的に自己観察することはできません。



イメージスキーマは、アナログ表現

イメージスキーマは、経験に端を発するアナログな表現です。

この文脈における「アナログ」とは、イメージスキーマが、感覚的な経験を映し出す概念システム内で形を持つという意味です。

言いかえるならば、私たちが言葉と絵を用いてイメージスキーマの描写を試みたとしても、頭の中では、そのような記号的(象徴的)な形では表現されません。代わりに、イメージスキーマ的な概念は、頭の中では、どちらかというと肉体的(物理的)な体験の記憶のように包括的な(ホリスティックな)感覚的体験として表現されます。

なぜならば、イメージスキーマは、感覚的な経験に由来するため、記憶の中に記録された知覚状態の要約を表しているからです。しかし、イメージスキーマが純然たる知覚的なものではなく、概念的なものなのは、意識的にアクセス可能な概念をもたらすからです。(マンドラー 2004)。つまり、イメージスキーマは、(より複雑な)語(彙)概念を構造化します。



 

©︎Penny Tompkins and James Lawley

翻訳:Yukari.I

 
<参考関連図書>

Cognitive Linguistics: An Introduction Evans, Vyvyan and Melanie Green


ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン


マーク・ジョンソン


ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン


ジョージ・レイコフ


Lindstromberg, Seth


 

誤訳にお気づきの方は、お手数ですが、 TOPページのcontactより ご連絡いただけると幸いです。




Comments


bottom of page