この記事は以下の翻訳です。 Embodied Schema: The basis of embodied cognition(ペニー・トンプキンス&ジェームズ・ローリー著)
イメージスキーマの内部は複雑
おそらく一般的に、イメージスキーマは、個々には分析できない複雑な様相(aspects)から構成されていることが多々あります。複雑なイメージスキーマの一例として、起点―経路―到達点(SOURCE-PATH-GOAL)のスキーマがあります。(シンプルに経路のスキーマということもできます)
経路は、ある場所から別の場所への移動を意味し、始まりの場所または「起点(SOURCE)」、目的地または「到達点(GOAL)」、そして、起点と到達点の間にあり、その2つを関連づける場所の一連から構成されています。全ての複雑なイメージスキーマがそうであるように、「経路」のスキーマは経験的なゲシュタルトを構成します。つまり、このスキーマには内部構造がありますが、全体としてまとまった形で出現します。
内部の複雑さの結果、「経路」のスキーマでは様々な構成要素に話が及ぶ可能性があります。関連する言葉ごとに括弧でくくったものを以下に示します。
起点
John left (England).
ジョンは、(イギリスを)出発した。
到達点
John travelled (to France).
ジョンは、(フランスへ/に)旅行した。
起点―到達点
John travelled (from England) (to France).
ジョンは、(イギリスから)(フランスへ/に)旅行した。
経路―到達点
John travelled (though the Chunnel) (to France).
ジョンは、(トンネルを通って)(フランスに/へ)旅行した。
起点―経路―到達点
John travelled (from England) (through the Chunnel) (to France).
ジョンは、(イギリスから)(トンネルを通って)(フランスへ/に)旅行した。
イメージスキーマはクラスターを起こす(集団発生する)
イメージスキーマは、クラスターを起こしたり(集団発生したり)、関連するイメージスキーマとのネットワークを生じることがあります。これを説明するために、力(FORCE)のスキーマについて考えてみましょう。力には、いくつか特性があります。
力のスキーマは、常に、相互作用を通じて経験される。
力のスキーマは、力(が作用する)ベクトル(方向性)を伴う。
力のスキーマは、一般的に、単一の運動経路を伴う。
力のスキーマには、力の発生源があり、力が作用する対象がある。
力には強弱(力の度合い)がある。
力には因果の連鎖があり、発生源、対象、力のベクトル(方向性)、運動経路がある結果として、例えば、子供がココナッツにボールを投げるようなことが起きる。
ジョンソンは、ジョンソンは、法助動詞(様相動詞) (例: must, may, canなど)の基盤や根源には、ある種の「力」のスキーマがあると示唆しています。これらの意味は、社会的で物理的な体験と関連しています。次に例をあげます。
You must move your foot or the car will crush it. 足を動かさない(動かすべきです。さもない)と車に轢かれますよ。 | 物理的な必要性。 |
You may now kiss the bride. 新婦にキスしてもいいですよ。(結婚式で) | 親、社会、または制度的な障壁は、もはや、新郎が新婦にキスするのを阻む妨げではない。 |
John can throw a javelin over 20 meters. ジョンは、槍投げで20メートル以上投げられる。(投げることができる) | 彼は、それを行う身体的/物理的(physical)能力がある。 |
ジョンソンは次のように論じています。 「must(〜べき/物理的な必要性)の根源的な意味は、強制(COMPULSION)のスキーマに由来するが、may(〜してもいい/許可)の根源的な意味は制止の除去(REMOVAL OF RESTRAINT)のスキーマと関連する。そして、can(身体的/物理的能力)の根源的な意味は、力の可能性(ENABLEMENT)のスキーマに由来する」
このように法助動詞(様相動詞)に関連する意味は、身体化された経験から生まれるイメージスキーマ的な基盤を持つというのが、ジョンソンの主張です。
身体化されたスキーマの一部リスト
以下のリストは、完全ではありませんが、これまでに文献で紹介されている種類別のイメージスキーマのリストです。イメージスキーマをそれぞれの経験的背景の特性ごとにグループにしました。
[括弧でくくった単語は、著者が付け加えたものです]
空間:SPACE | 上下 前後 左右 遠近 隣接(近接) 中心―周縁 接触 直進 垂直性 | UP-DOWN FRONT-BACK LEFT-RIGHT NEAR-FAR [PROXIMITY] CENTER-PERIPHERY CONTACT STRAIGHT VERTICALITY |
包含: CONTAINMENT | 容器 内外 表面 充満―空虚 内容 | CONTAINER IN-OUT SURFACE FULL-EMPTY CONTENT |
移動運動:LOCOMOTION | 推進 起点―経路―到達点 | MOMENTUM SOURCE-PATH-GOAL |
バランス:BALANCE | 軸のバランス 天秤のバランス 点のバランス 平衡 | AXIS BALANCE TWIN-PAN BALANCE POINT BALANCE EQUILIBRIUM |
力:FORCE | 強制 妨害 対抗力 迂回 制止の除去 力の可能性 吸引(索引) 対抗力 | COMPULSION BLOCKAGE COUNTERFORCE DIVERSION REMOVAL OF RESTRAINT ENABLEMENT ATTRACTION RESISTANCE |
単一ー複数 UNITY―MULTIPLICITY | 合併 集合(集められたもの) 分割 反復 部分―全体 質量計算 つながり | MERGING COLLECTION SPLITTING ITERATION PART-WHOLE COUNT-MASS LINK(AGE) |
同一性:IDENTITY | 適合 非適合 重ね合わせ | MATCHING [-MISMATCHING] SUPERIMPOSITION |
実在:EXISTENCE | 除去 境界 周期 対象 過程 | REMOVAL [-REPLACE] BOUNDED SPACE CYCLE OBJECT PROCESS |
[はかり(SCALE)] | [多いー少ない] | [MORE-LESS] |
[連鎖(SEQUENCE)] | [前―最中―後] | [BEFORE-DURING-AFTER] |
イメージスキーマとメタファー
もう一つ例を見てみましょう。モノ(OBJECT)のイメージスキーマについて考えてみましょう。このイメージスキーマは、机、椅子、テーブル、車などの形あるモノと私たちと日常での関わり合い(相互作用)がその基盤です。このイメージスキーマは、身体化された体験から生み出される図式的な表象で、モノに共通することを一般化しています。例えば、モノには色や重量、形、などの物質的特徴があることや、モノは特定の空間領域を占有することなどです。
このイメージスキーマは、「インフレ(インフレーション)」のような物理的な特性を持たない抽象的な存在を対応させてマッピング(写像)することができます。このメタファー・マッピング(メタファー変換)の結果、私たちは「インフレ」のような抽象的な存在を物理的なモノとして理解できるのです。これは、次のような例で説明できます。
a. If there’s much more inflation we’ll never survive.
さらなるインフレがあれば、私たちは生きていけない。 (これ以上インフレになったら、生きていけない)
b. Inflation is giving the government a headache.
インフレが、政府の頭痛の種だ。
c. Inflation makes me sick.
インフレのせいで気分が悪い。
d. Lowering interest rates may help to reduce the effects of inflation.
金利引き下げは、インフレの影響を軽減するのに役立つかもしれない。
「インフレ」を物理的な属性を持つものとして理解することでしか、私たちは「インフレ」を数量化したり、「インフレ」の影響について語たったりしたりができないことに注目してください。このように、概念以前に身体化された経験から生まれ、その経験に関係するイメージスキーマが、インフレのようなより抽象的な概念に構造を与えるのです。
まとめ
ジョージ・レイコフとマーク・ジョンソンが(世に)多大に影響を与えた、概念メタファーに関する研究(1980)の中では、「概念構造は部分的にメタファー体系から組織化されている。概念構造は、具体的領域と抽象的領域の間のマッピング(写像)か、関連づけによって特徴付けられていると論じられています。
概念メタファー論の領域は、関連する概念を組織化した知識体系です。イメージスキーマの重要性は、このようなメタファー的写像(マッピング)に、具象的な基盤を与えることができることです。
ここから後は、身体化されたスキーマを活用する実践例と演習です。
クライアントセッションの抜粋と、力(FORCE)の身体化されたスキーマがそこに利用されていることを示す動詞のリスト。
認識力とモデリング力を高めるための演習多数。
演習に対する私たちの「答え」の一部。クライアントの逐語録(セッション記録)の詳細なモデルなどを含みます。
(3)に続く
©︎Penny Tompkins and James Lawley
翻訳:Yukari.I
<参考関連図書>
Cognitive Linguistics: An Introduction Evans, Vyvyan and Melanie Green
ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン
マーク・ジョンソン
ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン
ジョージ・レイコフ
Lindstromberg, Seth
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