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心と、メタファーと、健康


なぜメタファーは病気や健康を描写するのに自然な方法であり、患者やクライアントのメタファーに気づくのが大切なのか、そして、それらのメタファー内での働きかけが、どのようにして個人的な癒しのプロセスを活性化させるのか、について、この記事で説明します。

癒しのプロセスでのメタファーとシンボルの使用は、何千年も前に遡ります。最近では、伝統的な訓練を受けた医療従事者が、がんやその他の病気の患者さん達に、メタファーやイメージを用いてきています。シンボリック・モデリングという新しいプロセスは、この伝統を踏襲しています。(Metaphors in Mind: Transformation through Symbolic Modelling という本の中にまとまった説明があります。)

メタファーが現実を決める

長い間、メタファーは「単に寓意的」であり、経験を描写するには不適切と見なされてきました。今日では、多くの認知科学者や言語学者、哲学者達により「人生のすべての側面において・・・我々はメタファーによって現実を決め、それらのメタファーに基づいて行動を起こすことが分かっています。私たちは推測したり、ゴールを設定したり、誓いを立てたり、計画を実行したりしますが、それらはすべて、どのようにして多少なりとも自分たちの経験を、意識的無意識的に、メタファーを用いて構築するかを元にしています。

また、メタファーが、癒しのプロセスに極めて重要な役割を担うことを、多くの医療従事者達が発見してきました。



雪の積もった荒れ地の山 シンボリック・モデリングを用いている、皮膚科医のジャスティナ・クラダツス医師は、このように報告しました: 「私の患者さんの1人には、まだら禿の問題がありました。頂上に雪が積もった荒れ地の山、というのが、彼の症状の当初のメタファーでした。プロセスが展開していくうちに、彼は、自身が格子のついた小さな窓の他には何もない、灰色のセメントの部屋の壁に、焦げ茶色のロープでつながれているのを発見しました。彼のメタファーは、黄色の花々と緑の植物であふれた美しい谷にある、白い井戸のそばに、彼が立っているところまで発展しました。その井戸は、爽やかな水の源でした。同時に、雪が溶け、山は木々が育っている小さな丘になりました。そして彼の髪の毛が、また生え始めたのです。」

うさぎちゃんとがん人参


ピーター・ヘテルは、上顎洞がんと診断されました。手術の後、がんが再発したため、彼はイメージとシンボルに取り組み始めたのです。彼は、彼の白い免疫細胞が、まるで『オレンジ色のがん人参畑で、人参をたらふく食べているうさぎちゃん達のようだ、そしてその人参は彼らの性欲を増し、それにより性交し、より多くの、もっと食べたい腹ぺこうさぎが増えていった』ことを、発見しました。ある朝、驚いたことには、彼は、ウサギ達が食べるのに十分な人参を見つけられなかったのです! 数週間後、彼は文字通り、腫瘍をペッと吐き出しました。「まるで彼の体が、異物を拒絶したかのようでした。ちょうど移植の拒絶反応のように、彼の体から取り除かれたのです。なぜそうなったのか、私には良く分かりません。」


健康相談におけるメタファー

患者さん達は頻繁に、自分の症状を描写するために、会話の中で自発的にメタファーを使います。「私の患者さん達は、痛みを、固い結び目のような、絞られるような、刺すような、焼けるような などというメタファーで、良く表現します。」と、ある医師は言います。がん患者さん達は、特に生々しいメタファーを使うことが分かりました。「それは私を食べ尽くしています」「山火事のように広がるのではないかと思って怖いです」などです。

医師と患者によって使用されるメタファー的表現の最近の研究は、

「もしメタファーが、明確にするための表面的な喩えというより、経験の実際の具現化であるとするならば、またはその両方ならば、医師にとってメタファーを理解することは、患者の健康についての信条を理解することと同様に、大切なことである。」と結論づけました。これは納得できる結果ですが、39名の開業医による373回の健康相談ののち分かったことは「医師の間での特定のメタファーの使い方に違いは認められず、患者と医師との間にメタファーの使い方の明らかな違いが認められた。」ことでした。医師たちは、身体を機械に例えるメタファーを使う傾向がありました;(尿路は『水道設備』、身体は『修復』できる、関節が『摩耗する』);病気はパズル(症状は『問題』に対する『手がかり』で、それは『解かれ』なければならない);医師は『制御装置』(症状を『管理』し、病気を『コントロール』するために薬を『投与』する)

一方で、患者のメタファーは、もっと生き生きとしており、表現が豊かで独特でした(『悪魔が彼女に憑りついたよう』、『私は綿球男だ』、『それはチャイニーズバーン(前腕を両手でつかみ、雑巾絞りするいたずら)のようだ。どんどんきつくなっていく』、『まるで私の体が打ちのめされたかのようだ』)医師と患者は、例え同じ言葉(『緊張』、『リラックスすること』、『神経』など)でも、医師は字義通りに使い、患者はメタファー的に使っていました。

患者は、痛みを表現するのに、例えば『鈍い』、『刺すような』、『鋭い』といったメタファーを用いましたが、これらの言葉は、今回の調査時に医師から聞かれることはありませんでした。

病気は攻撃であり(心臓、喘息、パニック『アタック(発作)』、感染と『戦う』、『鎮痛薬』)、疾患は火事である(『焼けるような』痛み、『炎症した』状態、症状が『再燃する』)など、医師と患者が同様に使う数少ないメタファーを別にすると、医師と患者は、異なる言語を話しているということになります。だから、多くの患者が聞いてもらった感じがせず、コミュニケーションエラーが起こっているのです。無理もありません。医学研究所の報告によると、アメリカでは、毎年4万4千人から9万8千人の病院患者が、防止可能の医療過誤で亡くなっていると推定されています。これは、乳がんや交通事故で亡くなるより多くの人が、医療過誤で亡くなっているということであり、その半数は防ぐことができたはずなのです。それらのエラーは、処方ミス、コミュニケーションギャップ、注意散漫なスタッフ の結果生じたものでした。


もしも医療者が、患者のメタファーを認知する訓練を受けていたなら、それらを病気の正しい描写として受け入れ、そしてまた、彼ら医療者が、自分たちがどのようにメタファーを使っているか自覚していたなら、これらの「コミュニケーションギャップ」は大幅に減らすことができたはずです。

マーガレット・ロックは、並外れた知恵(Uncommon Wisdom)の中で、「癒しの過程においては、もっとも重要なコミュニケーションプロセスは、メタファーのレベルで起こる。それ故に、メタファーを共有しなければならないのだ」と述べています。


病状を描写すること

ブリティッシュジャーナル・オブ・ ジェネラルプラクティスBritish Journal of General Practice の調査では、患者さんが自分の症状を描写するのに、どれだけ頻繁に、自発的にメタファーを使うのかが分かります。(965の異なるメタファーが特定された) しかしながら、そのような言語を使うように、促しが必要な時もあります。

多発性硬化症専門の看護師達に、健康にかかわる言語のコースを提供しているとき、私達は彼女らから、患者さん達が、その症状の奇妙な性質を描写するのを難しく感じている、と聞かされました。私たちは「そして、あなたの症状を描写するのが難しいときに、それらの症状は(例えて言うならば)何のよう でしょう?」と聞いてみるように、彼女らに提案してみました。この質問は、患者の困難さに理解を示し、なおかつ彼らの病気の主観的経験について、その質と特徴を描写するのに、メタファーの使用を促します。

看護師達が、この質問をしたとき「蟻が身体中を走り回っているようだ」や「チーズを縛る鉢金で脚をグルグル巻きにされているようだ」などという反応が返って来ました。さらなる質問、例えば「その(患者のメタファー)について、ほかに何かありますか?」や「その(患者のメタファー)はどんな種類の()ですか?」をすることで、患者は彼らの変な感覚についてより詳細に表現するよう励まされます。このように自分の症状を説明することができた時、患者さん達がどれだけ安心したかということに、彼女達は驚きました。患者さんの中には、自分の病気の経験を、誰かに本当に理解してもらったと感じたのは初めてだ、と言う人もいました。



シンボリック・モデリング

メタファーを使って症状を描写することに加えて、クライアントは、彼らの病気のメタファーを顕在化し、発展させ、健康のためのメタファーに進化させることによって、益を受けることができます。ヘジュマディ とリアールは、自家発生メタファーの使用は、身体的な不調で、その原因となる微生物が特定されない『機能性疾患やストレス性疾患に、特に有用であるとしました。

この機能性疾患のカテゴリーの中には、命に関わる有名な心血管系疾患や、ある種のがん、いわゆる自己免疫疾患、のほか、命にはさほど危険のない多くのアレルギー状態、筋筋膜性痛症候群、偏頭痛、月経前症候群などが含まれます。医療的注目の必要なすべての病気の50~80%は、ストレス関連か、機能性由来のものと考えられています。

クライアントが作った癒しのためのメタファーを発展させる時、『クリーンな』言葉を使用することが特に大切だということが分かりました。それは、私たちが、自分たちの個人的な好みや、特定の種類のメタファーで、クライアントの経験を『汚染』しないためです。シンボリック・モデリングはこのような働きかけのためにデザインされています。

シンボリック・モデリングは、メタファーとビジュアライゼーションを使用する他のプロセスに対して、以下の3つが異なります。1番目は、クライアントを信頼することです。そしてクライアントだけが、彼らの病気と健康についての彼ら自身のメタファーを特定し発展させます。2番目は、彼らのメタファーを質問する、特徴的な方法です。これは、クリーンランゲージと呼ばれ、デイビットグローブによって作り出されたものです。3番目に、メタファーは一般的にはイメージとして表現されますが、シンボリック・モデリングでは感情やジェスチャー、音、絵、物体なども利用します。

シンボリック・モデリングを通して、クライアント固有のメタファー内の葛藤や、バランスの欠落、または、楽でない性質が、予想しなかった有機的な方法で、その解決策を見い出します。これが起きる時、彼らは並行して、彼らの症状の変化を経験することが多いです。ときには直ちに、ときには数日から数週間後の間にそれがおきます。以下に例をあげます。



ケーススタディー: 十字架から柳の木へ

この記述は、参加者の体の症状に対して、シンボリック・モデリングとピラティスワークを組み合わせたワークショップの、1人の参加者によって書かれたものです。

私には、本を書き終える1年前から始まった、背中上部の痛みがありました。私は本を書き上げたいばかりに、痛みが悪化していっても、意志の力で書き続けていました。

1番最初に私が聞かれたクリーンな問いは「そして、あなたに何が起きれば良い?」でした。私は、このひどい痛みがなくなり、快適にショルダーバッグを肩にかけることができるようになりたい、と答えました。私の症状について、それを明確にするのに助けになる問いがなされました。その後「そして、その締め付けられる、ギリギリする、不愉快な痛みは、例えて言うならば何のようでしょう?」と聞かれたのです。「まるで、私の体の内側に十字架があるみたい。私の脊椎は、十字架の長い方で、横木が私の肩を貫いています。」と、私は答えました。このメタファーを描写する時、言葉やイメージ、動きが自然に、自発的に出てきました。メタファーに集中するにつれて、私は「十字架が問題なのではなくて十字架の柱が4つの巨大な金属のボルトで止め付けられているのが問題なのだと気づきました。全く柔軟性がないのです。ボルトに反して動くたびに、そこが引き攣れて痛むのです。」この時点でシンボルはシンボル的であることをやめ、私の現実にとって変わりました!


〔Figure.1〕

Q: そして、あなたの体の内側にある十字架は、どんな種類の十字架ですか?

Me: 木製の十字架です。

Q: そして、その4つの巨大な金属のボルトについて、何か他にありますか?


Me: それらは、動くのを拒絶します。


Q: そして木製の十字架があって、4つの巨大なボルトが動くのを拒否する時、その十字架は何が起きたら良いのでしょう?


Me: それは固定されてながらも、柔軟でいようとする必要があります。


Q: そしてそれは、固定されていながらも柔軟でいようとすることができますか?


Me: いいえ、ボルトがそうさせないでしょう。


Q: そして、ボルトはそうさせない時、そのボルトは何が起きたら良い?


Me: ボルトが手放すことができる前に、色とサポートが必要です。



更なる質問と、さらなる洞察の後、私は自分のメタファーの絵を書くように、また、私が使った言葉(十字架、拒絶、ボルト)について、辞書で調べてみるように言われました。私が拒絶re-fuse と言う言葉を考えている時、それには電気的なつながりがあることに気がつきました。そして、4つの巨大なボルトの間に、突然大量の多色の電気ワイヤーが現れました。



この新しいイメージを、私は私の絵に付け加えました。[Figure 2]

それから、自分のメタファーに注意を払うことに集中しながら、優しいピラティスのエクササイズをしました。


[Figure 2]


翌日、さらなるクリーンランゲージの問いがなされ、その結果メタファーがより進化し、ある時点で私は私の椅子に、前屈みに座っていました。私が姿勢を正したとき、驚くようなことが起きました。十字架のボルトが、外れる感覚があったのです。「ピン、ピン、ピン」という感じがして、その時起きていることを明確に感じながら、私はただ座っていました。その「ピンという感覚」が止まった時、私の背中の痛みはなくなっていました。私は、終わった、と思いました。それでもありがたいことに、それらの質問は続きました。なぜならその変化の効果について自覚する助けになったからです。その横木は、今では全方向にゴムひもでぐるぐる巻きにされてくっついています。という事は、私が動く時、横木も自由が効いて、私と一緒に動くことができるということです。[Figure 3]

[Figure 3]


Q: そしてゴムバンドが全方向にぐるぐる巻きであるとき、その十字架は何か起きますか?

Me: 十字架は下側が重くなります。


Q: そして、その下側が重くなる時、次に何か起きますか?


Me: 根っこが生えてきます。


Q: 根っこが生えているとき、次に何がおきますか?

Me: てっぺんから上に向かって枝が何本も広がっていきます。


このやりとりが、私の十字架が柳の木に十分に具体化された感覚を得るまで、続きました。その柳の木の幹には、電気ワイヤーが美しく織り込まれていました。柔軟性があって、安定していて、優美で、強い電気ワイヤーです。すべての質問が、この変化に対する私の身体での自覚を増やしていきました。 [Figure 4]

[Figure 4]



このワークショップ以来、背中が強く痛むことは2,3回ありましたが、私の柳の木に注意を向けてピラティスのエクササイズをすると、痛みは消えました。私はいまだに、私の柳の木を持っていて、ええ、ショルダーバッグを肩にかけ、信じられないことに、バックパックまで背負うことができるのです!


終わりに

かつて、心は体に全く影響を及ぼさないと、考えられていました。今では、非常に伝統的な医療者でさえ、心と体はつながっており、それぞれが影響しあうことを認めています。さらに進んで、こう捉えることもできるでしょう。心と体は、単に1つのものの異なった表現であり、すべての疾患は、ある意味、心身疾患であり、すべての治癒過程は心身の治癒過程である、と。


メタファーとシンボルは、症状と健康を描写する自然な方法です。人々が使うメタファーを認知する方法や、メタファー内でそれらをどのように扱うか、そうすることによって、どのように治療過程とウェルビーイングに影響することができるかを学ぶのは、医療従事者にとって、非常に有益です。


患者やクライアントによって使われるメタファーは、奇妙かもしれませんが、当てずっぽうでは無いのです。メタファーは、それらが生み出されるところの身体と心のシステムを象徴する有機的な秩序を内包しています。シンボリック・モデリングとクリーンな問いにより、特定し、発展し、進化する、クライアントが作り出したメタファーを通して、情報が明らかにされ、有機的な治癒過程が生じます。


あなたが、開業医、コンサルタント、ボディーワーカー、心理療法師家、代替医療家など、どんな職種の健康や医療従事者であっても、あなたのクライアントや患者は、彼らの主観的な経験を描写するのに、メタファーやシンボルを使うことでしょう。それらのメタファーやシンボルに対して耳を傾け、どうぞ、クリーンな問いをしてみてください。そうすれば、結果が分かるでしょう。



著者:Penny Tompkins and James Lawley

翻訳: 森本みき Miki Morimoto

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